〔特選〕

木洩れ日のひとつとなりて秋の蝶          太田 硯星

日陰れば芒の光自づから                同

熊笹を掻き分け行くや晩夏光            菅野 桂子

風かろく芒の原へ歩をのばす              同

沢の辺へ一歩険しく草いきれ            石黒 順子

秋天や家を離れて家のこと               同

秋雲のハートの右の未完成             明官 雅子

露の玉こはれて湖の一滴と               同


あはあはと木洩れ日の斑(ふ)も秋の色       新村美那子

朝霧のほぐれゆく先日の差して             同

白樺の木肌めくれて秋暑し             平井 弘美

生きんとて朝露に濡れ実生橅(みしょうぶな)      同


秋澄める木の間隠れに沢走り            堀田千賀子

秋蝶に安らぐことも山路かな              同

まだ青き葡萄の蔓のゆきどころ           新井のぶ子
 
息ととのえ令法(りょうぶ)の花を目交(まなか)いに  同

熊笹に沈む一行天高し               内田 邦夫

朝露を吸うて白蝶飛び立てり              同

身も心にも秋風のやさしくて            中村 文夫

日の差せば蝗の跳ねる時なるか             同

山緑したたる隙に湖の青              東海 さち

朝まだき山霧動く中を行く               同


歩かせてもらふダム底秋高し            舛田としこ

朝まだきドイツ唐桧の実を拾ふ             同

分け入れば手に熊笹の秋涼も            坂本 善成


山の朝膝へ胸へと蝗飛ぶ                同

三段に区切れし青さ秋の湖             犬島荘一郎

浅黄斑かすめては又戻りけり              同

病む足に先ず群がって草じらみ           磯野くに子

目つむりて秋のただ中有峰は              同

新涼やダム湖の風の濃く甘く            長谷川静子


座りたきベンチを翔たず秋の蝶             同

誰がために現の証拠の花ひらく           篠原 成一

巡り来て病葉も美(は)し鬼胡桃            同

露けしや森を長靴おろし立て            篠原 信子

八人の高きに登り無心かな               同

はつらつと秋雲えがく世界地図            中川 正次

秋晴や峰にすっくとネズコ立つ             同

そよ風に木洩れ日揺れて夏は行く          山澤美栄子

見上げれば山毛欅(ぶな)も見下ろす夏の湖       同

八月の宝来島へ徒(かち)渡る           老松 成子

登山口あさぎまだらの出迎えか             同

盗人萩咲き始めたる朝(あした)かな        羽柴 崇 


  
第13回 有峰俳句の会

〔講師吟

干上がりし湖底や風も冷(すさ)まじき   中坪 達哉

石を踏む音を重ねて秋の山           同

一句目 平成27年8月27日 東谷、水位が下がって陸続きとなった宝来島(吉事山)周辺、

二句目 平成27年8月28日 薬師岳、雲の平方面への登山客で賑わう折立登山口周辺を                 詠んだもの。