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有峰村民の皆様と、ほぼ2週間に一度、双方向で交流するメールマガジン
有峰森林文化村新聞 2011年3月11日 第228号
編集/有峰森林文化村会議 編集長/羽座千敏
(発行日現在の有峰村民人口:726人)
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━━目次━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆有峰村民によるリレーエッセイ第13回 宮森瑞穂
 〜森の記憶〜
◆オレゴン有峰往復書簡第106回目 有峰からオレゴンへ    中川正次
 〜平内先生と学びの厳しさ・優しさ〜  
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◆有峰村民によるリレーエッセイ第13回 宮森瑞穂
 〜森の記憶〜
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幼い頃の記憶の中で、私が大切にしている記憶があります。それは、森の
記憶。

小学校低学年のころ、近所に住む仲良しのエミちゃんと弟と私の三人で、
家の近くにあった森の中の小道を突っ走った記憶です。

春と夏が混じり合うような時期、大きな静寂の中、木々から漏れる光を浴
びながら、私たち三人は目的もなく、ただただ森に誘われるように小道を
駆け上がっていきました。

会話をするわけでもなく、言葉にならない声で体を満たしながら、全速力
で走っていたのです。走っても走っても疲れない、どこまでもずっと走っ
ていけるような感覚。森が大きな力で私たちを包みこんでくれているよう
な感覚。

小道を上り終えると、小さな開けた土地がありました。森の中でとんでも
ない秘密を見つけてしまったような気持ちになったのを憶えています。誰
も知らない、世界中で私たちだけが知っている秘密の場所。
家に帰って早速三人で、あの秘密の場所に建てる家の設計図を書きました。

私の記憶はその辺で終わっているのですが、あの森の中での力みなぎる感
覚、風の感触、足底を押し返す土の感触、全ての感覚が昨日のことのよう
によみがえってきて、今でも私に大きな力を与えてくれるのです。

エミちゃんに会ったら、憶えてる?といつか聞いてみようと思うですが、
大阪にお嫁に行った彼女にはなかなか会えていません。

森に行くと何か楽しいことが待っているような気がして、今は娘と一緒に
森を楽しんでいます。

森のこども園が、森との最初の出会いだった娘は、二人で森に行っても
「お友達は?」と森の中にお友達を探します。娘にも美しい森の記憶が一
つでも残るといいなとも思いますが、今この娘が楽しければそれでいいか
という気もします。

今回このリレーエッセイの依頼を藤井さんからいただきました。それは、
「また有峰においでよ」というお誘いをいただいたようでした。雪が溶け
たら、有峰に行きたいと思います。

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◆オレゴン有峰往復書簡第106回目 有峰からオレゴンへ    中川正次
 〜平内先生と学びの厳しさ・優しさ〜  
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ニュージーランドの地震に遭われた平内好子先生の死亡が確認された。痛
ましい限りである。平内先生とは、平成12年、新川女子高校の教頭先生だ
った先生に有峰森林文化村基本構想検討会の委員をお願いして以来のつき
あいである。有峰森林文化村は、先生に、基本計画策定委員会、懇話会と
ずっと委員をお願いしてきた。

平内先生に関してみなさんにお伝えしたいことが3つある。1つ目は、あり
みね高校生学びの森である。平成16年に始まったこの事業は、県内高校生
が高校の生物の先生と有峰で、生物の研究を5日間するものである。6月と
10月に日帰り、8月に2泊3日の野外研究である。こうした事業は、全国で有
峰にしかない。ありみね高校生学びの森を成立させている要素は、四つあ
る。第一の要素は、ブナ林が形成され、湖があり、川があるという有峰の
自然である。これに関しては、有峰は、富山県でピカイチだ。第二は、有
峰ハウスという宿泊施設があることである。第三は、有峰ハウス別館とい
う、ちょうどいい集会室があることである。ここで、標本を作ったりグラ
フを描いたりする。この有峰ハウス別館のありがたみは筆舌に尽くしがた
いものがあるので、いつか改めて書こうと思う。第四は、県高等学校教育
研究会生物部会野外教材研究部会の存在である。野外で高校生に生物の勉
強をさせたいと考えている先生たちの集まりで、自分たちのことを絶滅危
惧種と心配されておられる。この部会を長年リードしてこられたのが平内
先生である。

平内先生には、自身がぐいぐい引っ張って行かれる面と、後輩の先生方が
努力工夫するよう、我慢強く待っておられる両面があった。後輩の先生が
平内先生のことを私に話されるとき、敬愛の念をこめて「平内御大」「平
内親分」とおっしゃることも多かった。平内先生なしに、ありみね高校生
学びの森はなかった。全国唯一のこの活動は、平内先生のおかげで成立し
たのである。

お伝えしたいことの2つ目は、有峰トランプである。有峰トランプは、有
峰の歴史、植物、動物、風景を、56枚(13枚×4種+ババ4枚)のトランプ
で表現したものである。そのうちのハートの8は、アリミネアミメオニダ
ニである。平内先生と小田原の青木淳一さんが発見され、日本土壌動物学
会の雑誌に報告されたものである。体長1ミリメートルのダニを、顕微鏡で
覗いて、ひげや手足の突起を正確にペンで描き、新種であることを証明し
ておられる。その正確な絵をトランプに使わせてもらった。トランプの説
明は、「有峰の森から発見された新種のダニ。背中の模様が美しい。落ち
葉を食べて土に戻してくれる」とある。

ダニがトランプの絵柄になっているのは、世界唯一と思われる。有峰トラ
ンプは、伏木の風物を描いたトランプをヒントにしたものである。特定の
地域の風景中心の似たようなトランプが今後も出てくる可能性はある。し
かし、歴史、植物、動物、風景を、総合的に、哲学を意識して表現しよう
としたものはなかなか出てこない。とりわけ、生き物は、生産者(植物)、
消費者(動物)、分解者(微生物・キノコ・土壌動物)のサイクルで回っ
ていることを表現しているダニのカードは、有峰トランプの象徴である。

最後に、3つ目としてお伝えしたいのは、「学びの厳しさと優しさ」であ
る。私は、本を読んだり人の話を聞いて、なるほどと思った言葉を手帳に
メモしている。そのメモの中に、「学びという言葉は厳しさと優しさを兼
ね添えている 平内好子」というがある。

おそらく、平内先生からいただいた年賀状に書いてあったものであろう。
この言葉、「学問にはある程度の強制が必要だ。甘やかしてはならない」
という意味だろうと考えていた。あるいは、平内御大が、後輩の先生方の
成長を促すために、心の中で唱えておられた言葉だろうと思っていた。

地震のニュース以来、この手帳を何度も読み返した。今の解釈はこうだ。
学びとは、「そういう自分はどうなのだ」という問い返しを含んだ厳しい
ものなのではあるまいか。自らの偽善を問いつめることが学びなのではあ
るまいか。

環境学という学問で考えると、自分自身が環境的に好ましくないことを犯
すことがある。いらなくなったものを分別しなくちゃいけないと知ってい
ても、めんどうくさいので、まとめて捨てることがある。環境を教える先
生がマイカー通勤しているなどが、わかりやすい例である。

「そういう自分はどうなのだ」という問い返しを含まないものは、異臭を
放ち、知の名に値しない。しかしながら、偽善者としての自分を問いつめ
ていったら、精神的に参ってしまう。偽善者としての自分を問いつめつつ、
どこかで許していくといった中庸の中に知がある。優しさとはそういうこ
とだろう。

哲学、宗教といった言葉が浮かぶ。夏目漱石、宮沢賢治、中島敦、太宰治
らは、「偽善者としての自分の問いつめと、そこからの救い」をテーマに
してきたのではないか。有峰森林文化村新聞第226号(2011年2月11日)で
書いたように、インターネットやパワーポイントで表現できる思想は、勧
善懲悪どまりである。小学生なら、勧善懲悪でよい。性の目覚め以降は、
「そういう自分はどうなのだ」が知の根本になる。音楽や絵を友とし、本
を読み、人と話をしながら、あわてず騒がず考えを深めていくことが大切
だと思う。とりわけ森の中を歩きながら。平内先生の「学びの厳しさと優
しさ」という意味は、そういうことにあったと解釈してもいいのではない
か。平内先生は、授業や職員会議、校長先生としての挨拶でどのようなこ
とを話しておられたのだろう。聞いてみたかった。

「山路(やまみち)を登りながら、こう考えた」という草枕の冒頭が、一
緒に歩いた猪根山遊歩道での先生の笑顔と合わせて思い起こされる。

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