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有峰村民の皆様と、ほぼ2週間に一度、双方向で交流するメールマガジン
有峰森林文化村新聞 2003年12月27日 第39号
編集/有峰森林文化村会議 編集長/中川正次
(発行日現在の有峰村民人口:310人)
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━━目次━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆1月3日 KNBふるさとスペシャル「岳の薬師 森の有峰」
◆「日本の景観」の著者、樋口忠彦さんへの手紙  中川正次
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◆1月3日 KNBふるさとスペシャル「岳の薬師 森の有峰」
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北日本放送が、今年一年かけて取材した特別番組を、新春に放送します。
放送は、1月3日(土)午後2時30分から午後3時55分までです。
乞うご期待。
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◆「日本の景観」の著者、樋口忠彦さんへの手紙  中川正次
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樋口忠彦様

はじめて、お手紙いたします。書店で、先生の書かれた「日本の景観」が、
目にとまりました。というより、「日本人は盆地好き」という腰巻に。

読み終えて、もやもやとしていたものが、すっきりしました。

私は、有峰森林文化村という仕事をしています。有峰というのは、富山県
東部の標高1100メートルの高原盆地です。2926メートルの薬師岳の麓にあ
ります。昔、村がありました。電源開発でダムができ、有峰湖ができまし
た。ブナ、ミズナラなどの落葉広葉樹の明るい天然林が広がっています。
有峰は、雪の多いところで、6月から11月上旬までしか行けません。

有峰までは、V字峡沿いの林道を行かなければなりません。しかし、盆地
につくと、周りはなだらかな山に囲まれ、ボートも浮かんでいない静かな
湖が広がっています。今年の秋、朝4時ごろ、湖畔で毛布にくるまって、
金星と思われる星が湖面に映るのを、私は見ました。

有峰ビジターセンターで説明をすると、「よく、こんな不便で寒くて米も
とれないところに、人が住んでいたものだ」と、みなさんおっしゃいます。
しかし、1時間余り遊歩道を歩き、湖畔に出て、ハーモニカにあわせて皆
で合唱すると、「ふるさと」、「おぼろ月夜」、「あかとんぼ」、「里の
秋」がとてもあうのです。段ボールを切って短冊を作り、筆ぺんを渡し、
俳句でも作りましょうかと促すと、すばらしい句がたくさんできるのです。

「よく、こんなところに、人が住んでいたものだ」が、みなさんの第一印
象です。しかし、いつしか、歌の「ふるさと」がしっくりなじむようにな
り、俳句がどんどん生まれるようになる。この変化を、私は、常々不思議
に思っていました。

倭は 国のまほろば たたなづく青垣 山隠(やまごも)れる 倭しうる
はし

海に面した難波津ではなしに、山に囲まれた子宮のような奈良盆地に、人
は心安らぐ気持ちを抱く。有峰は、この倭建命(やまとたけるのみこと)
の歌に、あい通ずるところだったのですね。

5つある遊歩道のひとつに、砥谷半島遊歩道があります。湖の中の半島の
ゆるやかな尾根を登っていくと、展望台があります。その展望台につくと、
目の前に湖面がぱっと広がります。正面に湖に浮かぶ宝来島が見え、午後
の日差しに湖面が静かに光っています。

峠こえ 宝来島に 冬日さし (11月5日に私が作りました)

昔の人が、常願寺川を遡り、有峰盆地に着いて、眼下に広がる桃源郷に息
をのんだ。このことを追体験できる遊歩道なのだと、今、わかりました。

戦後、電源開発が再開される頃から、「有峰を俗化させず大衆の山とす
る」という言葉が、文献のはしばしで見受けられます。「俗化させない」
と、「大衆の山にする」。これらは矛盾します。「俗化させず大衆の山と
する」という言葉の中には、矛盾を統合させようとする挑戦があります。
龍樹、聖徳太子、最澄と流れる大乗仏教のことが意識されていたと思いま
す。

聖と俗の境界に呻吟する姿に対する愛惜こそが大事なのだと思います。俗
化させたくないという願いと、大衆の山にしたいという願い。これらを両
立させようとした知の延長に我々は立たなければならないと思います。

ディベートに代表されるような対立を際立たせる思考方法に、私は知的興
奮を感じません。遊歩道を並んで歩く。湖畔に並んで座る。小さな炎を車
座に囲んで、全身全霊を傾けて話を聞くといった学び。有峰逍遥学派、有
峰哲学の森といったことを、「有峰を俗化させず大衆の山とする」という
考え方の延長に築きたい。これが、私の願いです。

有峰逍遥学派、有峰哲学の森への歩みの大きなヒントを、樋口先生に教わ
った気がします。6月になったら、ぜひ、有峰にお越しください。

編集部注:樋口忠彦氏は、1944年生まれ。京都大学大学院教授、都市環境
工学専攻。「日本の景観」は、ちくま学芸文庫にある。
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